スズメバチ

図書館の帰りだったよ
きみに出会ったのは
きみは駐車場のコンクリートの上で
通りすがりの足をすくうように転がっていた

大切な人を亡くしたばかりのときだったよ
きみに出会ったのは
きみは梅雨の晴れ間の仰向けでさ
ゴングロヴィッチと名乗ったんだ

電話のある家に帰りたくなかったよ
ああ、ゴングロヴィッチ！
きみはウコンの粉末にも負けない黄色でさ
脚からひげの先まで完全無欠だった

きみといっしょの黄昏だったよ
ああ、ゴングロヴィッチ！
きみはどんな彫刻家も寄せ付けないカーブで
男の肉体を見せつけた

手の平に乗せると　きみは
バレエダンサーの汗の匂いを放ち
体重をふーっと０にして　死んだ

棺の中で立っているようだった彼と
きみがどんなに似ていたか……

ああ、ゴングロヴィッチ
いっしょに電話のある家に帰って
わたしがどんな風に彼の続きを生きているか
死んだばかりの眼で見てはくれないだろうか


〜〜西沢杏子詩集『虫の曼陀羅』より〜〜