源五郎


いまでは

源五郎が噛み砕いていたのは
オタマジャクシだったといおう　　たしかに

あの日わたしは源五郎の顎が
オタマジャクシによく似た芥を
噛み砕いていると思おうとしたが　たしかに

それは間違いだったといおう

あの日わたしは
隠そうとするものをもっていた　　一つだけ
自分の不実を他人のせいにするという一つを

源五郎の顎が噛み砕いていたのは
しっぽをもった芥のようではあったが
オタマジャクシだった　　　　　　たしかに

故郷の池の少し淫らな深みに目を凝らすと
隠すものがなくなったわたしの顔が　　一つ
毛むくじゃらの源五郎と重なっている


〜〜西沢杏子「虫の葉隠」より〜〜